2016.11.01
教育改善推進室開催、平成27年度FD/SDセミナーは『国立大学法人熊本大学 大学院 教授システム学専攻長 鈴木 克明 教授』をお招きして<よりよい授業を設計するためのインストラクショナルデザイン>と題して、教育を効果的かつ魅力的にするにはどうしたら良いのかをテーマに、鈴木先生より授業の実践事例の紹介や参加された先生方のお悩みディスカッション等を行いました。当日のセミナーの模様をお伝えします。
「教え方を教えます」とうたっている大学院から参りました。
我々の大学院は完全オンラインですので、一度も通学しないで修士/博士が取得できます。
我々は4つの「I」を大事にしております。
1.教育の設計ができるID(Instructional Design)
2.ICT業者に騙されない程度の知識IT(Information Technology)
3.プロジェクトが回せることIM(Instructional Management)
4.法務の専門家に相談ができるIP(Intellectual Property)
以上4つの「I」と言うことを概念化致しまして、これを学んでもらう為の大学院です。
何故我々が授業で講義のスタイルをいつまでも続けているのか。それは我々がその方法で習ってきたからです。それ以外の方法を知らないから取りあえず喋っている。しかし、これからは講義形式をやめたいのであれば他の方法を編み出さないといけない。そしてそれにはどうすれば良いのか。講義形式ですと、テキストとしてあるものを授業中にただひたすら喋る。講義で話してくれるのだからと学生はテキストを読んでこなくなります。どうすれば読んで来させることができるのか?そこで発想の転換を計り、講義の始めにテストをすることにしました。例えば、来週は3章のテストをするので教科書を読んできなさいと伝えます。そして講義の時間の一番始めにテスト用紙を配って15分間テストを行います。15分過ぎたら隣の人と交換して採点させるのに15分使います。その間、私はウロウロと教室を回り学生の質問に答えたりして、最後にはテスト用紙の回収をします。採点は済んでいますので、パッと見て20点以下の人は来週再テストしますよと伝えます。そのように毎週毎週テストを繰り返していると、学生達もどれくらい勉強すれば合格できるのかわかってきますので、段々と再テストをする必要がなくなってきます。要するに喋るだけの授業をやめ、情報の提供は授業の外でやり、講義時間は違うことをやりましょうと。授業が相互チェックや相談の時間になると寝ている人がいなくなります。
日本の大学を良くしようと思ったら、講義形式と最終テストをやめるべきです。日本の大学生が何故勉強しないかと言うと年2回テストがあるからです。テストの直前にさえ勉強すればそれで済んでしまうので学生は普段は勉強しません。逆説的に考えれば毎回テストがあればその為に勉強しなければいけなくなります。しかし毎回テストするのは大変です。採点しなければなりませんし、誰が何点なのかを毎回記録しなければいけない。しかしそれはICTを活用すれば簡単にできます。eラーニングにして1度問題さえ作ってしまえば、何人何百人いても全て記録に残り管理も簡単です。他にもICTの活用事例としまして、自動採点クイズがあります。これは基礎的なもの、答えが決まっているようなものは全て自動採点テストで行う。穴埋め式でも○×式でも何でも良いのですが、一度作成してしまえば自動採点ですので先生方が採点する必要も無く、どの学生がどれくらいできているのかが一目瞭然です。また、どの問題が難しくて大多数の学生が理解していないかが明らかになります。他にも100問くらい問題を作成しておいてランダムに毎回10問ずつ出す等、ICT活用法はいくらでもありますのでどんどんお試し頂いたらと思います。
先生方が講義や演習など様々な授業設計をどのように進めていったら良いのか。インストラクショナルデザインは授業の設計を専門にした教え方の学問です。学問なので裏付けがあります。今まで先生方の授業がうまくいっていたのにはきちんとした裏付けがあります。そして上手くいっていない授業にも裏付けがあります。そういう裏付けを一つの学問として理論づけ、研究されたものがインストラクショナルデザインです。インストラクショナルデザインは教育の悩みを解決する道具です。是非道具として使って頂いて、何か授業で困っていることを解決できる手助けになればと思っています。
ここからは、参加者(教職員)が今現在、困っていることをワークショップ形式で発表し合いました。
主な困りごとは・・・・ ・
活気がない・授業中に携帯を使う・居眠りしている・レポートを出さない・勉強の優先順位が低い ・自発的に学ばない・学力差が大きい・モラルが低い…等々 教える側の先生も大変です。
総合すると、学生の学ぶ意欲が低いと言うことでしょうか。
鈴木先生からは次のような解決策を提示して頂きました。
A(Attention)注意・面白そう
R(Relevance)関連性・やりがいがある
C(Confidence)自信・やればできそう
S(Satisfaction)満足感・やってよかった
これらの頭文字を集めてARCSモデルと呼んでいます。
1.注意(Attention)面白そう!
まず授業を見てもらわないことにはどうしようもないので、とにかくこちらを向かせるように工夫をしてみる。授業に魅力を感じていないのであれば、始めには何か変わったことをやってみるとか、15分ごとに区切って違うことをしてみるとか。とにかく注意喚起してこちらを向かせるような工夫をしてみることが大切です。
2.関連性(Relevance)やりがいがある!
必修や単位目的と言うのもわかりやすいやりがいの一つです。また、この科目が将来どういう所に繋がってくるのか。そういった意味を学生にきちんと説明して、自分のものになるように積極的に取り組めるようにする。授業プロセスを楽しむようなアクティブラーニングや、グループとしてゲーム感覚で楽しむ方法もやりがいの一つです。
3.自信(Confidence)やればできそう!
この自信の部分が一番の問題です。大体の科目が学生にとっては非常に難しいのです。難しいから学ぶのだと先生方は言うかも知れませんが、それは先生が工学の専門家であるからそのような事が言えるのです。学生も自信があるなら履修などしません。ギブアップされないためには近いところにゴールテープを貼ってあげることがとても有効です。ゴールが明確でないまま授業を受けているのは自信喪失につながります。シラバスでも評価の基準を明確にすべきです。又、先生が勉強のやり方を全て指定するのは良くありません。本当の自信を身につけさせるには、自分なりのやり方を見つけることです。
4.満足感(Satisfaction)やってよかった!
この授業を受けて無駄に終わらせないことが重要になります。覚えたらすぐに使える機会を作る。こんな風に役に立つといった経験をさせることが大切です。そして周囲が「できたじゃないか」と肯定的に認めてあげる。他にも公平性や統一性が必要です。えこひいきの無さや首尾一貫性。宿題を出したらきちんと集めることや、範囲外のテストを出さないとか。学生は非常にささいなことでも裏切られると満足感が得られません。学生の立場になってみて、先生自ら授業を演出してあげるのです。
私はフロリダ州立大に行ってケラー先生にお会いして初めてARCSモデルを知り、動機付けはAttentionだけではダメだと理解しました。しかし、これをやれば何でも上手くいくわけではありません。どうすれば魅力的な授業になるのか、その考え方の枠組みだけはモデル化されていますので、ご自身の科目の特徴を考え、学生の性格等を踏まえて授業を工夫して頂ければと思います。
インストラクショナルデザインは、単位認定は出口目標の最低ラインを与えることを基本的な考え方としています。一番簡単な方法は講義を何もしていない状況でテストをします。そこで60点以上取れていれば、単位を与えてしまって良いわけです。できないから授業に来ているのであって、できるのであれば必要ないと。これはTOEICやTOEFLの点数をもって英語の単位を認定するのと同じ考えです。 これは毎回の授業でも同じことで、出口目標を授業の始めに伝えるのです。ここまでできていたら認定しますと毎回示し、その科目の出口目標を常に意識させます。このことを続けていると学生は勉強しないとダメだとわかってきます。この考え方と対局にあるのが、ただボケっと座っているだけで単位が貰える履修主義です。インストラクショナルデザインは修得主義です。入口と出口にどのくらいのギャップがあるのかを常に学生に意識させ、それを共有すること。そのギャップを埋めていくのが大学教育です。
インストラクショナルデザインはメーガーの3つの質問という考え方を重要視しています。これは教育の改善はどこからスタートするかを教えてはいけないと言うものです。
1.どこへ行くのか
2.たどりついたかどうかをどうやって知るのか。
3.どうやってそこへ行くのか。
目標はどこで、出口はどこなのか。何を持って修了認定をするのか。そして修了認定をするのはどのような評価基準に基づいているのか。その2つが明らかになった上でどういった授業方法があるのかを考える。しかし授業方法は色んな考えかたがあって良いと思います。とにかく単位認定はどういう授業をやってきたかでは無く、その結果として何ができるようになったのかで認定して頂きたいと思います。
以上が<よりよい授業を設計するためのインストラクショナルデザイン>のセミナーの模様です。「履修主義をやめて修得主義にしましょう。そしてその結果何ができるようになったのかを意識する。」という考え方はとても興味深いものでした。少しでも先生方の授業運営のヒントになれば幸いです。